リアルお茶会まで何光年

井上茶寮の『カヌレ羊羹』。
オンラインお茶会にかこつけて、庶民にしては奮発した。


夏休みらしいことをしたい。夏らしい事を。


不意に友人のはりねずみが言い出して、間髪を入れず、珍しい食べ物が食べたいね、と私が返す。ネット越しの通話でもすぐに分かる。お互いコロナ前の休日が恋しいのだ。


オンラインのお茶会なんて限りなくままごとに近いのは分かっているけれど、限界。どこにも出られない、この生活が。



右から味噌、抹茶、レモン、焙じ茶、ピスタチオ。
夏らしい限定セレクション。


元来の食い道楽の本領を発揮し、『カヌレ羊羹』というカヌレ型の羊羹を、井上茶寮というお洒落過ぎるお茶屋さんから取り寄せた。パッケージを見ただけで気分が上がって、箱を開けて中身に惹かれる、そんなお菓子は久しぶりだった。



お品書きも浮世絵風。ショコラと河内晩柑と、桜が気になる。



夏らしいことをしたい、という当初の趣旨はどこへやら、お茶を飲みながら出る話は、自然とコロナの事ばかりになった。毎日1000人を軽く超える、ここ一週間の感染者数激増。あっという間の病床逼迫。PCR検査数。デルタ株。にもかかわらずの出社状況。休日の渋谷の人手。開会前から物議を醸したオリンピックの開会式への批評は、流石に新聞記者に筆を譲りたい。



金沢に旅行に行った思い出話がちらと出ても、すぐに旅行に行けない今現在の話に戻ってきてしまう。多分、今だに自粛を続けている生真面目な都民は、このお茶会で出た話と似たような話を、どこかでしているんじゃないかと思う。



水出しを注ぎたるは阿南維也のフリーカップ。
不思議とお茶の色が分かる銀色。



流石に肌で感じている。

前の緊急事態宣言延長が決まった6月上旬からこっち、結構な方の自粛タガが外れたのを。

理不尽が重なって、色んな人が精神的に耐えられなくなっているのを。東京という街の限界を。



それでも連休最後のカヌレ羊羹は、話と話を繋ぐ一瞬だけ現実が和らぐ程度には美味しかった。甘辛の味噌味にも、ねっとりあっさりのピスタチオ味にも慰められた。いつも頂かないお菓子は鈍い刺激になって、新しいグルメを試す道楽から随分遠ざかっていた事を思い起こさせた。


既にもう一度食べたい。この抹茶、最高だった。



ふと考える。以前の日常はまだ遠い。でも、今となってみればまだ薄らと幸せだったあの日々は、果たして戻ってくるのだろうか?



お茶会の場を壊すようで言えなかったけれど、一瞬そう思った事は書き留めておく。ややもすれば享楽的だったあの日々は、コロナ禍が去っても戻ってこないんじゃないか。ぼんやりとしたそんな思いが、確信に変わりつつある事も。



こんな妙に不穏な予感は、どうか当たらないで欲しい。頼むよ。お茶会で気を取り直しつつ、私たちだけでももうちょい自粛するからさ。



繁忙期につきテイスティングし損ねティー。又発注するので御勘弁を。
こちら水出しも美味しい、とお茶会で全会一致(2名ですが)。

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